食を支える企業を経営する
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レストランやホテルで出てくる美味しい食事の背景に常に存在する厨房機器。その業務用厨房機器メーカー、フジマック。グループ全体で1200名以上の従業員を擁す東証二部上場企業の社長に2018年4月に就任した、International MBA卒業生の熊谷光治さん。フジマックのクッキングライブ会場でお話を伺うことが出来ました。
経営者と話したくて銀行員に
――現職の前のキャリアについて教えていただけますか?
僕は新卒で大手都市銀行に入り、5年程働いていました。育った環境から経営について漠然と憧れがあり、経営者と話をしたい、仕事をしたいという思いが学生の頃からありました。所属していた法人営業部では、100億から1000億円ぐらいの年商の上場企業を複数担当させてもらえました。経営者の方々と直接お話をして相談を受けられる良い経験でした。普通の会社なら、まず経営者と頻繁に会うことなどはできないので、銀行に入行したんです。
新聞に出てくるような案件も対応し、非常に勉強になりました。周りの方の助けのおかげでうまく対応でき、表彰状を頂いて良いお客様を担当させて頂けるようになりました。青山の営業部のときはいつも成績優秀者でした。周りの方や色々な巡り合わせがあり、運がよかったんだと思います。
Why IE?
銀行で5年程働いた後、フジマックに入社し、社費派遣でアメリカに1年程行っていました。英語が苦手だったのですが、1年間でTOEIC550点からIELTS7.5まで上げました。その後MBAをいくつか受けるにあたり、アントレプレナーシップやファミリービジネスを学べるIEに決めました。
IEの学びが活きていること
―去年の4月に社長就任され、IEで学んだことは今の業務にどう役立っていますか。
もともと純ドメでしたが、欧米両方で学んだことで、アメリカとヨーロッパの異なる価値観を勉強できました。機械はドイツ製やイタリア製が優秀なので、弊社はヨーロッパの取引先が多いんです。基本的に英語で商談しますが、IEでの経験がなければとても出来なかったですね。
あと、ファミリービジネスの同級生も多かったですね。あまり皆最初から表立って言いませんが。色々な国の似たような境遇の生徒と授業を受けられたのは財産になっています。弊社は上場企業であり、純粋なファミリービジネスではありませんが、現在まで創業家が経営しています。人一倍仕事に勉強に頑張らなければ社員から認めてもらえませんし、マーケットや株主の方々にも説明がつかないと思っています。
日本と違う欧米の企業に対する価値観
――IEでの学びの中で、新たな発見はありましたか?
IEの授業で印象的だったのは、Cristina Cruzのファミリービジネス(選択科目)。フランスに、200年以上続くファミリービジネスだけが加盟できるエノキアン協会があり、その中で一番古い西暦718年創業の某老舗旅館が最初の授業のテーマになりました。「1300年間続く企業だけど1300年間で大きく成長しているわけではない。この会社についてどう思うか。」そんな授業でした。
1300年続く老舗企業は、尊敬に値する素晴らしい企業だという意見を言ったら、他のほぼ全員がファミリービジネス出身者なのに反応が悪いんです。ビジネススクールだからかもしれないけど、僕以外全員「企業は成長してこそ価値がある」という意見でした。日本の場合は成長企業だけでなく、安定収益や創業年月にも価値や美学を感じます。でも、彼らにとっては何年でどれだけ成長したかというのが価値基準だと言っていました。授業の最後には、いろいろな価値があるよねって結論で終わりましたが、日本と欧米の価値観の違いは大きく感じましたね。
課外活動の思い出
――課外活動での思い出はありますか?
やっぱりジャパンナイト(日本の文化を紹介する学生主導のイベント)ですね。僕が相撲レスラーの格好をして、周りに同級生がいっぱい集まってくれて、すごく良い思い出です。
フードビジネスを支える厨房機器
――今のお仕事、そしてフジマックという会社について教えてください。
フジマックは業務用の厨房機器を作る会社です。業務用キッチンはホテルや病院、飲食店、従業員食堂、意外なところではデリバリーピザ屋さん、船、コンビニと、いろいろ場所にあります。1964年、前回の東京オリンピック前に、ホテルニューオータニ様が西洋式の大型厨房を日本で初めて作ることになり、私の祖父が受注したんです。ホテルの西洋式厨房の納入実績が出来、現在は日本のラグジュアリーホテルの約70%と取引をさせて頂いています。
――ラグジュアリー・ホテルということは、ハイエンド向けということですか?
ハイエンドというより、厨房の設計や製品のカスタマイズなどにも柔軟に対応するので、こだわりの厨房を作られるお客様が多いです。特注比率は業界でダントツですね。それから海外製品を輸入して納入するということもしています。お客様のニーズを聞いて、専用機械を開発製造もしています。機器の搬入、施工、アフターサービス、メンテナンスまで含めてトータルでサポートしています。電気やガスの直接施行はしませんが、知識は当然必要なので詳しい社員が多いです。排水やグリストラップの設計、床工事なんかもやりますよ。
――御社のプロダクトの特徴、差別化ポイントは?
この業界は専業メーカーさんが多く、熱機器と、冷機器両方作っている会社があまりないので、差別化できています。製造機種の数は業界で圧倒的に一番だと思います。あとは施工面で、大規模ホテルや、衛生管理が厳しい病院厨房のノウハウが蓄積されているのも強みですね。実は小規模店舗でもナショナルチェーンのように店舗数が多いお客様から、オペレーションを改善する特注製品開発なども引き合いを頂いています。例えば、ホテルが新しく建つ場合、建設会社さんや設計会社さんも厨房設計の細かいことまではよく分からない。どのぐらいのスペースがいるのか、そもそもどんな機器が必要なのか、我々のような厨房機器メーカーに依頼が来ます。
あと病院の場合は調理方法も特殊なものがあります。人手不足なので現場で人を確保できないとなると、給食会社さんのセントラルキッチンで作った料理を急速冷却して、その料理を配送して現地で再加熱する、という方法があります。
今非常に導入が進んでいるクックチル、ニュークックチルなどの提供方法で、専門の設備と提供ノウハウを持っていないとできないんですが、フジマックは近年その施工実績が非常に増えているので、新しく導入したいお客様にアドバイスをしたり、図面を引いたりしています。大型プロジェクトは工程管理や建設会社と打ち合わせとか、結構専門知識が必要なんです。そのノウハウをうちはかなり持っていると思います。施工もできるプロフェッショナル人材が多いです。
――海外展開についてお聞かせください。
中国・東南アジアを中心に輸出しています。業界の中ではかなり早く、1982年からシンガポールに進出しています。シンガポールを拠点として、タイ、ベトナム、カンボジア、グアム、台湾、北京、上海、香港。それから工場は、日本の福岡のメイン工場に加えて、上海とホーチミンにもあります。上海の工場は、現地の販売子会社と力を合わせて生産も増えてきていますね。
――海外展開も製造だけでなく販売もしているのですね!テクノロジーの進化はどうですか?
デジタル産業と違って、調理手法の煮る、焼く、炒める等は大昔から変わっていないんです。ただ、調理のオペレーションは進化していて、例えばフジマックのバリオクッキングセンターは、省スペースで煮る、焼く、炒める、揚げる、圧力調理が一台で全部できるので、日本の狭い厨房スペースの中の機械としては非常に優秀です。それにパワーが非常に強いので、常温から200度まで2分で達しますからね。調理における予熱完了までの時間を減らせるので調理時間が短縮して、提供時間も早くすることができます。また温度コントロールも非常に正確なのでミシュランの星つきレストランや、ホテル、病院、エアラインケータリングなど様々なお客様にご満足頂いています。
――調理のオペレーションの進化の背景とは?
人口が減っているのも影響して、調理師になろうという人材も減っているようで、調理師学校も設備を充実させて、最新の機械を導入していますね。また、料理はどうしてもまだ手作業が多いので、働き方改革の関係と調理師不足もあって、非熟練の作業者でも調理ができるようなシステムや機械も求められています。このバリオクッキングセンターはボタンを押したら簡単に卵焼き等が作れます。「卵焼きをちょっとかき混ぜてください」「今、巻いてください。」という指示が出るんです。巻くのも簡単な巻きやすい器具があるので、僕がやっても簡単に巻けるんですよ。
他にも、ローストビーフは、オーブン調理を始めると中の状態がわからなかったんです。昔はシェフが途中で熱いオーブンに手を突っ込んで「このぐらいの堅さならもう少しだな」という判断基準が多かったそうです。今のコンビオーブンという弊社のオーブンは芯温センサーがあって、針で食材を刺すと中の温度を拾ってくれるんです。中心温度が何度になったらちょうどいいか教えてくれるので、非熟練の調理人が作っても美味しいローストビーフが作れます。熟練調理人にも満足いただけ、非熟練の調理人でもおいしい料理ができる、そういうものが求められていますね。
食の世界をトータルサポートしたい
会社には厨房や料理のプロフェッショナルがいっぱいいます。社内にたくさんいる日本ナンバーワンの人材を今よりもっと有効活用したいです。「フードビジネスのトータルサポート」という経営理念ですが、機械のIT化やIoT化、ロボットだったり、将来的に色々な食の世界をサポートができるはずです。現場が困っているならば、それを助けるソリューションを提案するのが僕らの役目、今は原田くん(IE同期)に手伝ってもらいながら、そんなことにチャレンジしています。
MBA受験生へのメッセージ
IEは変な人がいっぱいいるんですよね。僕の同期なんか変人ばっかり。前後の代の人も変わった人が多いですけど。だいたい、学長のSantiagoだって、入学式で「Unusual school with unusual people」とFTに言われたって言って喜んでいましたからね。
変人っていうのは悪い意味ではなくて、専門性があったり、色んなことに挑戦したり、色んなことを作り上げる力を持っている人だと僕は思っています。間違いなく僕が一番普通の人です。そんな人達と付き合うと刺激がありますね。よくMBAでStep out from your comfort zoneっていいますが、まさにれを体現しているコミュニティです。これから受験する方も日本の社会にどっぷりつかった方々が多分多いと思いますから、強制的に外に出る環境に身を置くのは素晴らしい経験だと思います。優秀な学生がたくさんいるアメリカのスクールもいいと思いますし、IEみたいに変な人と頭良い人がバランスよくいる学校もいいんじゃないかと思います。