
起業を決断したMBA留学
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最近はMBA卒業後に起業することが多くのMBA受験生の目標になっています。しかしながら、卒業直後の起業はなかなか見かけないのが実情です。そんな中、私費留学して卒業後すぐKoi Travelを起業した松岡さんから、MBA留学の動機と起業を目指したきっかけを伺いました。
MBA受験
大学院卒業後、新卒で野村総合研究所に入社しました。大学の専攻が都市計画だったので、主に国土交通省や経済産業省のコンサルティングをしていました。入社3年目に起きた東日本大震災をきっかけにキャリアについて考え直し、MBA留学準備を始めました。
当時交際していた今の夫が社費でMBA留学に行く話があり、そういうキャリア変更もありだと気付いたのも、MBA留学を考えるきっかけでした。留学準備中に結婚することになったので、同時期に留学できるように2013年入学を目指しました。
夫は金融勤務だったのでINSEAD一択でしたが、私はINSEADって金融業界の人が行く学校というイメージが強くて選択肢に入れませんでした。学校を探す中でIEの多様性に富んだところと起業に強いところに惹かれてGWに学校訪問して、ここしかない!と感じました。IE単願で受験し、ギリギリの時期に合格を頂きました。
――夫婦でスペインとフランスのMBA留学。1年間遠距離夫婦をされたわけですね。
はい。せっかく私費で留学するんだから自分に合った学校に行きたい、遠距離生活も時差がなければどうにかなると思い、彼と同じ国に行こうとは思いませんでした。二人とも平日は忙しかったので、国が違っても問題なかったです。
IEで起業へのハードルが下がった
――最初から起業を目指していたんですか?
出願時のエッセイで、なぜMBAが必要かという説明に説得力を持たせるために起業したいと書いていたんです。それが、エッセイに書き、何度も面接で話すうちに自分自身が洗脳されてきて、入学する頃には本当に起業したいと思うようになっていました。入学後は起業関連の授業を積極的に受講し、身を入れて学びました。入学後にVenture Labを受講するための選抜試験を受けた時には、卒業したら旅行ビジネスで起業しようという気持ちが固まっていました。
あと、毎週木曜日にベンチャーピッチで地元の若い子たちのプレゼンを聞いていて、精度の低いものから良くできたものまで玉石混合で、起業って肩肘を張らなくてもいいんだと実感したのも大きかったです。IEの同級生も、起業した会社を休ませて留学に来ているとか、起業へのハードルが低い人が多いんです。IEにいると、とりあえず起業してみようと思えたので、どうせ起業するなら仕事も決まってない、子供もいない、若い今しかないと思って決断しました。
ーー私費で来ている日本人同期たちが就職活動をしている中で、自分はベンチャーを起業するという点で、迷いはなかったですか?
今なら外資系コンサルファームにも転職できると思い、少し迷いました。でも、元の会社に戻ることが決まっていた夫が、「今しかできないし、とりあえずやってみなよ」と後押ししてくれたのもあり、起業する決断をしました。あと、私が卒業後すぐに起業できたのは、起業自体に必要な元手が少なくてすむビジネスモデルだったのと、生活費の心配をしなくて良かったのが大きいです。
日本文化の神髄をちゃんと伝えるサービスを作りたい
ーー起業するにあたり、インバウンド・旅行という領域にしたのには何か理由があったんですか?
観光庁との仕事で、MICE(マイス)と呼ばれる、会議をどう誘致するか、これから観光の需要がどう増えるかという話に関わった時、観光ビジネスは伸びると思ったのが最初のきっかけでした。
さらに、IEでJAPAN TREK を企画した時、外国人が日本観光でできることを初めてきちんと調べたんですが、質の高い英語のサービスがほぼないことがわかりました。通り一遍の観光地に行くのではなく、もっと深くちゃんと日本文化の神髄を体験できるサービスを提供すれば受けそうだと思い、観光客が日本文化体験で何ができるかをだんだん絞っていった感じですね。
――Koi Travelのサービス内容について教えてください。
主に英米系の英語話者のハイエンドからアッパーミドル向けのツアーを企画しています。ツアーは2種類あって、1つは普通のウォーキングツアー。ガイドと表参道や代官山を歩いて、街と人を知ってもらうツアーです。このツアーの売上が一番大きく、頻繁に問い合わせもきます。もう1つは弊社独自の文化体験ツアーで、日本の伝統工芸の職人さんに会いに行くツアーです。一番人気があるのは日本刀の工房で、いかに鉄の塊から美しい日本刀を作るかという工程の一部を見せてもらうツアーです。他にも、益子焼や備前焼のツアーは人気があってよく売れていますし、京都の螺鈿職人のツアーも人気があります。
職人さんと話すことで、日本文化や日本人について知ってもらうことが狙いです。旅行していると海外に身を置いていても、実際に現地の人と話す機会って意外とないですよね。ガイドを雇えばその人を通じて日本人というものが透けて見えますが、職人さんの方が日本人らしさを自然に体現していると思うんです。日本の歴史、昔ながらの職人気質、なぜ日本人がマニアックなものを作るのか、職人さんと1時間話すだけでも体感できる、弊社のツアーのそういうところが受けてるいのかなと思います。
地方に人を連れて行きたい
――今後の目標について教えて下さい。
もっと地方に人を連れて行きたい、地方で特に若い女性の雇用創出に繋がることがしたいと思っています。弊社のガイドさん達は、子育てを機に退職した方とか、留学経験があって会社を早期退職した方とか、優秀な方が多く、そういうガイドさんだと、やっぱりお客さんの反応もいいんです。
きっと地方にもそういう方々がいるはずで、大学卒業後すぐで優秀なのに地元に雇用がないから意に沿わない仕事している人とか、希望の仕事がないから東京や都会に出てくる準備をしている人がいるんじゃないかと想像しているんです。そういう人たちに、ツアーガイドという仕事が、かっこいい仕事だよねって目指してもらえるような職種にできたらいいなという野望を持っています。
その壮大な野望の一歩として、地方に顧客のニーズにあったツアーを実際に作って運営するのを協力してくれる会社やガイドさんが見つかれば、或いは一緒に作っていけるといいなという夢があります。あと、弊社のプログラムの若い鎌倉彫職人さんがアート作品を作り始めているので、そういうものを海外に売りたいとも思っています。
MBA受験生へのメッセージ
留学前って費用対効果とか本当に意味があるかとか考えると思うんですが、日本の場合、年収を上げるだけならコンサルや投資銀行に転職する方が確実かもしれない。なぜわざわざキャリアを中断してMBA留学に行くのかと言うと、数字でははかれない面白みを得るためだと思うんです。
IEはいろいろな挑戦をする人が多いので、自分自身の価値観にも大きな影響を受けました。20代、30代のたった1年ですが、MBA留学は人生への影響が大きいので、自分の好奇心が刺激されるなら、それに従うといいと思います。特に私は子供を産んで、自分の人生を自分だけのものとして自由自在に振る舞える期間というのは、限られていると感じました。今、留学が可能な環境に身を置いているなら、是非チャレンジして、世界を広げて欲しいと思います。