トラディショナル型サーチファンド「M-Capital」起業
目次
2021年International MBA卒業後、2022年に6カ国18名の投資家の支援を受け、日本で2番目のトラディショナル型サーチファンド「M-Capital合同会社」を立ち上げた志村さんにお話を伺いました。
IEでの経験を一言で表すと?
いろんな意味でカオス
IEでの経験がキャリアや人生を変えたこと
自分の中にあった「起業に対するハードル」を下げることができたという点に尽きると思います。まずIEでは1年間のカリキュラムを通じて、実際に自分のビジネスアイデアを生み出し、調査や検証を重ね、そのアイデアを投資家にピッチするという経験を何度も繰り返し行うことができます。特にカリキュラム後半のStart-up Labは、5週間、チームで一つのビジネスアイデアをひたすら磨き上げ、他のチームと競い合うという、非常に刺激的な期間でした。
私たちのチームは、認知症患者と有償介護者をマッチングさせるプラットフォームを開発し、入賞(Cloud Favorite Award)することができ、とても良い思い出になりました。こういった経験を通じて、どのようなビジネスアイデアを生み出せば、投資家からの支援を受けやすいのかという点について考えるようになりました。また、自分と国籍もバックグランドも異なるクラスメイト達は皆、起業家精神旺盛で、それぞれの課題に基づいたビジネスアイデアを持っていました。彼らと時間を重ねる中で、「自分が人生で成し遂げたいことは何なのか」を自然と考えるようになりました。
一般的には、日本の保守的な社会では、会社員から起業家になるのはなかなか難しいことのように感じられますが、IEのMBAで起業家マインド(とりあえずやって見て、失敗したらアイデアを改善し、何度でも起き上がれば良い!)を身につけることができたおかげで、卒業後の起業にスムーズにシフトすることができました。
IEの一番の思い出
卒業式でのスピーチです。幸いなことに、同じセクションの仲間による投票の結果、卒業式のスピーチを任せて頂きました。スピーチメーカーに選ばれたときは驚きと戸惑いがありましたが、大きなプレッシャーの中で結果を出すことが好きな性格なので、引き受けることにしました。最高のものを作り上げようと思い、誰もいない教室で、一人で何度も練習したり、MBAプログラムの偉い人たちを巻き込んだりして、たくさんリハーサルしたのを鮮明に覚えています。スピーチの原稿がクラスメイト達へのラブレターのような内容になってしまい、若干照れ臭さかったですが、スピーチが終わった後、多くのクラスメイトや日本の友人、家族からポジティブな感想を貰えたことがとても嬉しかったです。もちろん、クラスメイトたちと世界各国を旅行したことや、イビザ島のビーチでワチャワチャしたことも貴重な経験でしたが、卒業式のスピーチは一番印象に残っていますね。
起業にMBAが役立ったこと
私にとって最大の挑戦は、多様性のある環境の中でいかにして生き残るかということでした。30年以上日本でしか暮らしたことのない私は、22国籍18名のクラスメイトに、どのように貢献していけるのかと、入学前は不安でいっぱいでした。彼らは、自分とは国籍も性別も職歴もまるで違う。しかし、International MBAのプログラムは、私に立ち止まる余地を与えてくれませんでした。授業でのクラスメイトとのディスカッションや毎晩のパーティを通じて、強制的に多様性を放り込まれ、クラスメイトと昼夜を共にすることで、多様性の中での自分の強みを客観的に評価し、自分の価値を発揮する方法を学ぶことができました。伝統的な日本の大企業だけで仕事をしてきた自分の視点は極めて狭く、限定的であったことに気づかされました。これらの経験は、決してこれまでの日本でのキャリアの延長線上にあるものではありませんでした。
日経新聞で特集が組まれた経緯
まず、M-Capitalは私一人のプロジェクトではなく、6カ国18名の投資家が参画してくれています。1年近く誰からも注目されずに地道な準備を重ねきましたので、今回日経に掲載され、少しでも世間の注目を浴びてホッとしましたし、投資家メンバーにも喜んでもらえたことが嬉しかったですね。そして、サーチファンド黎明期の日本において、今回のようなサーチファンドの活動が紹介されることで、今後私のように買収を通じた起業(Entrepreneurship through Acquisition)を志す若者がどんどん増えれば良いなと期待しています。更に、深刻な事業承継問題を抱える日本において、事業承継問題を抱えるオーナーの方々にも、こういった報道を通じて、サーチファンドの存在がもっと認知され、経営者希望の若者に会社を売却するという事例が増えていけば良いですね。
大企業勤務から起業という転換を成功させた秘訣
大きなキャリア転換をするためには、他の人がやっていないことをやるという点が重要かと思います。日本では中小企業オーナーの平均年齢は60歳を超えており、彼らの半数以上に後継者がいないという実情です。サーチファンドは、こういった事業承継問題の解決策となり得ますが、2021年当時、海外の投資家から資金を集めて、日本でサーチファンドを立ち上げようと動いている人は、日本には誰もいませんでした。
また、日本にサーチファンドの概念を初めて持ち込んだ、株式会社Japan Search Fund Acceleratorの嶋津紀子社長、日本初のトラディショナル型サーチファンドを立ち上げ、2021年に事業承継を実現した株式会社タオの黒澤慶昭社長(IESE MBAの先輩)といったサーチファンド業界の第一人者の方々や、日本プライベートエクイティ株式会社の法田社長、Pinewell Capital, LLCの松井社長等、プライベートエクイティ・M&A業界の大先輩の方々から、多大なるサポートを頂けたことも幸運でした。私の前職は素材メーカーの営業であり、現在のキャリアとはかなりかけ離れていますが、たまたまタイミングとご縁に恵まれ、大きなキャリアチェンジを実現することができました。
買収先を探す上で重要な要素
基本的には、国際的なサーチファンドの投資基準と同じように、1)成長産業に身を置き競争優位性がある、2)多様な顧客基盤からの継続的な収益(Recurring Revenue)が見込める、3) EBITDAベースで1-3億円程度が見込める、4)大きな設備投資を必要としない、といった条件を満たす日本国内の優れた未公開企業「1社」を探しています。企業価値は、15億円程度までを想定しています。ただ個人的には上記の条件に加え、オーナーの人間性であったり、事業の新規性であったり、世の中への貢献度であったり、長期的な視点でのポテンシャルであったり、その企業に惚れ込むことができるかどうかという「直感」や「ワクワク感」も大切にしています。 少しでも私の活動に興味を持っていただけるオーナーの方が、もしこの記事を見てくださっていましたら、是非一度カジュアルに面談させていただけると嬉しいです。
MBAの学生へのメッセージ
MBAで出会うクラスメイトや教授達は、皆それぞれ大きな志や、各国のネットワークを持っています。自分が将来的に成し遂げたい大きな目標があるなら、その目標を、周りの仲間に向けて宣言しておくことをお勧めします。周りの誰かが、きっと応援してくれるはずです。実際に私もMBA留学中から、「サーチファンドおじさん」的なポジションを確立し、IEのブラジル人の教授や、クラスメイトに紹介して貰った投資家に、出資して頂いたりするチャンスを得ることができました。