教室を飛び出しやり切ったStartup Lab
目次
2018年1月入学、International MBAプログラムの中村です。以前の日本人学生がStartup Labの概要や感想の記事を書かれているので、私はアイデア構築からチーム編成、毎週の活動、最終プレゼンと結果、そしてLab後の現状までを書かせて頂きます。
アイデア構築からチーム編成
私は社費留学ですが、IEには起業について学ぶために入学しました。Startup LabはIEのアントレプレナーシップに強い面を活かした、実践的で良いプログラムだと卒業生の方々から聞いて、選択しました。
入学前から考えていたアイデアの中で選んだのは、牛丼や駅そばのような日本食ファストフードのマドリード展開です。マドリードのレストランはランチでも1食1500円前後と高く、ファストフードはサンドイッチしかないので「安い、うまい、早い、日本食を手頃な価格で多くの人に届けたい」と考えたからです。プロジェクト名は「Don Buri」としました。
Term2のアントレプレナーシップの授業で、インドネシア人とペルー人の同級生と始動しましたが、彼らが別のLabを選んだため、Startup Labに向けて再度メンバー集めをすることになりました。Startup Labは3~5人でチームを組む必要があるので、学校側が各人のアイデアや経歴がわかる特設サイトを作り、Lab開始前には交流の場も提供してくれます。
結果、テクノロジーと寿司職人の経歴を持つ日本人の市川さん、元金融機関勤務でファストフードのフランチャイズオーナーだったフィリピン人、レストラン・コンサルティングと起業経験があるメキシコ人が参加してくれて、4人でチームを編成しました。
Lab 1〜3週目の活動
アントレプレナーシップの授業で、アイデアの選定、経営方針作り、コスト計算、資金調達まで考えて発表していたので、初期の負荷は軽かったです。商品が食べ物である強みを生かし、発表時には毎回牛丼などを用意して人目を惹くプレゼンを行ったのも一助となり、1、2週目はメンター、投資家からの評価も良かったです。2、3週目にはIE周辺やオフィス街で牛丼と豚丼の試食会も開きました。延120人以上に試食してもらった結果、野菜が少ない、種類が少ないという意見が目立ったため、新メニューを開発しながら再値付けをしました。
順調に思えていたDon Buriプロジェクトですが、3週目の投資家への発表で、投資家による仮想資金調達がゼロという結果を出してしまいます。伝えたいことがわからない、熱意がない、質問に納得のいく回答ができていない、と言われました。4分という限られた発表時間に情報を盛り込みすぎて論点が不明瞭になったこと、発表の事前練習や想定質問への準備を怠ったことが原因でした。即、3週目の投資家達に連絡し、面談と具体的なアドバイスを依頼しました。悲壮感と奮起が入り混じった複雑な心境でした。
Lab 4〜5週目の活動
3週目末の土曜日は私の家でレシピ開発を行い、日曜日は投資家面談に向けてプレゼン資料を再構築しました。4週目は授業もある、プロジェクトもある中、投資家面談では辛辣な意見を言われ、疲労のピークを迎えていました。そんな4週目発表前日の投資家面談で「もっと資料の見た目を工夫しろ。外部に依頼すれば?」と言われ、徹夜でプレゼン資料のデザインと内容を作り直すことにしました。著名な起業家のプレゼンデザインを調べ、プレゼンの上手い他チームのプレゼン資料を共有してもらい、試行錯誤しました。
徹夜明けの金曜日、4週目の発表で、41チーム中3位の仮想資金調達額を得られました。努力が報われた安堵と感謝、そして、最終週に向けて沸き上がる熱い思いを感じました。
5週目は、日本人デザイナーに店舗イメージのイラストを作ってもらったり、資料のデザイン変更を複数の外部機関に依頼したりしました。また、マドリードのオフィス街で街頭調査もしました。そこで得られた情報は、日本のサブカルチャー、特にマンガ、アニメ、ゲームなどの知名度が非常に高く、好印象を持たれているということでした。
複数の投資家と面談を続け、サブカルチャーを加えるアイデアやプレゼンを改善するための意見をもらいました。5週目もほぼ徹夜した日が2日ありましたが、結果が出てきたこと、役割分担が明確になったこと、やるべきことに向けて迷いなく取り組めていたことにより、疲労感はあまり感じずチーム全体としても再度活気付いていきました。
最終プレゼンと今後
最終週は、資金調達額上位12チームだけに発表の時間が割り当てられます。Don Buriも発表でき、最終的に12チーム中5位の資金調達額を得られました。Don Buriは、皆でプレゼン、質疑応答に対応し、チーム一丸となって渾身の発表ができました。投資家の一人から「私がこれまで見た発表の中で、一番情熱を持ったものの一つだった」と言ってもらえたのは、本当に嬉しかったです。
最終プレゼンの結果が良かったこと、具体的なビジネス構想も固まってきたこともあり、現メンバーでDon Buriプロジェクトを継続することになりました。複数の投資家とも話を続けています。また、メキシコ人メンバーが中心となってスペインでの会社登記に向けても動いています。加えてStartup Lab中に研究と情報収集のため日本食レストランの食べ歩きをしていた際に知り合った料理人の方にも協力して頂けることとなり、9月以降にイベントなどでポップアップストアやキッチンカーを出店することを計画しています。
Startup Labのアドバイス
皆さんがもし投資家だったら、投資要件としてどのようなものを挙げるでしょうか?
- リスクが低いこと
- リターンが大きいこと
- 早くリターンが返ってくること
- アイデアがウケそうかどうか
- メンバーの能力とやりきる力があるかどうか
まさにこれらがStartup Labで投資家が評価する要件です。投資家によって優先順位は異なりますが、最重要事項は投資に見合う収益を得られるかということ。ただし、Venture Labの要件と優先順位は異なると思うので、ご興味ありましたら別途ご連絡ください。Don Buriの場合は、上記の4と5が評価されたのだと思います。
所感と反省、最後に
Startup Labを振り返って、素晴らしい御縁に恵まれたと感謝しています。我々2018年1月入学のStartup Lab全41チーム中、10チーム近くで期中のメンバー変更がありました。そんなストレスの多い環境で、チーム一丸となって目標を達成し、Lab終了後もプロジェクトを継続したいと言えるのは有難いことです。
難しかった点は、チームマネジメント、特に個々人の働き方の価値観への対応です。プロジェクトへの思い入れの違いは当然あるにせよ(提案した人が一番思いが熱いのは当たり前)、それ以前に「時間の使い方や進め方の違い」は大きな壁と感じました。反省点も、チームマネジメントについてです。Don Buriでは、都度役割を決めていましたが、アイデアを出した責任者として、アイデアの方向性の管理は指揮をとろうと意識していました。しかし、自分も動きながら役割分担や進め方を決め、各人に配慮することは両立できませんでした。
特に4~5週目は、私が3週目の挽回のため発表結果を重視するあまり、メンバーとの対話を疎かにし、一方的な指示を出して自身のパフォーマンス向上に注力したことを心から反省しています。これではマネジャーは務まらない。毎週の発表後はチームで食事会をして、労いと感謝の言葉をかけていましたが、至らぬ点の方が多かったです。チーム全員が我慢して意見を尊重してくれることが多々あり、思いやりと協調の心を持ったチームメンバーに、改めて感謝しています。
苦労した点は、プレゼン資料作りです。IEには見た目重視でプレゼン資料を作るのが得意な人が多く、プレゼンの結果に大きな影響を及ぼすとわかりました。内容だけでなく、魅せ方も重要だと認識でき、色々調べて学べたことは大きな力となりました。
最後に、私ごとで恐縮ですが、レシピ開発や買い出し、試食の準備、日本食レストラン巡りなど、妻にも本当に支えてもらいました。妻の助けなく、Don Buriは継続できなかったです。妻への感謝の気持ちを最後に、Startup Lab体験記を〆させて頂きます。