スペインで法律を学ぶ
目次
IEといえばMBAプログラムが有名ですが、実はIE Law Schoolもあり、時代にあった革新的なリーガル教育を提供しています。今回はそのLLMプログラムを卒業した、コモンズ綜合法律事務所の西村先生にお話を伺いました。
スペインのロースクールで学ぶ
IEのLLMに入学した日本人は僕で三人目なんですよ。僕の前がMBAとDual DegreeでLLMを取得した日本人女性、さらにその1年前に有名な国際弁護士事務所の弁護士の先生が卒業されています。
――西村さんのこれまでのキャリアからLLMまでの道筋を教えていただけますか?
日本の大学を卒業してから、日本のロースクールに通い、司法試験に合格しました。現在所属しているコモンズ綜合法律事務所で5年半、企業法務専門の弁護士として働いた後、IE Law Schoolに行きました。事務所から一定額の留学費用を負担してもらい、超過した費用は自分で負担する形でした。
事務所の弁護士は全部で6名いて、比較的若いアソシエイトが僕を含め3名、事務所の方針で3名全員、2年ずつ海外に行くことになりました。2年のうち始めの1年は海外のロースクールで勉強し、もう1年は海外の法律事務所で実務を勉強することになっています。僕の前に留学した人は、アメリカに行って、その後LAの事務所で働いて帰ってきました。彼と入れ替わりで僕がスペインのIE Law School、そしてスペインとパナマの法律事務所から帰ってきたので、次の人が今シンガポールのロースクールに行っています。
IE Law Schoolを選んだ理由
スペインを選んだのは、上がアメリカ下はアジアに行くって言うんで、僕はヨーロッパに行こうと思ったんです。ヨーロッパならイギリスに行く弁護士が多いので、イギリスのプログラムも一応見たんですが、実務家である弁護士資格を持つ人が行く LLMでも、授業数が少なく、長い論文を書く必要があるアカデミックな感じだったんです。僕のタイプに合わないと思い、ならば仕事で英語が使えるようになるように英語でできるプログラム且つ、中でも、企業法務をしているので実務に使える内容を学べるところがいいと思って探したら、IEのLLMが面白そうだと思って決めました。
――IEのLLMプログラムはどうでしたか?
面白かったですが、大変でした。僕は英語が不得意だったので、慣れるのに苦労しました。多分MBAで英語が苦手な方と似ている感じだと思うんですが、発言したり、議論したりが、最初は大変でしたね。
クラスは25人くらい。中南米と南ヨーロッパの弁護士ないし法務担当をしていた経歴の人が多かったです。中南米は、ブラジル、アルゼンチン、ペルー、コロンビア、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコもいたので7カ国ぐらい、ヨーロッパはイタリア、フランス、ポルトガル、スペインで4カ国、あとアメリカと、アジアは僕とフィリピンの学生がいました。女性が多かったですね。欧米は日本に比べて弁護士の女性の割合がかなり多いんですよ。
――プログラム中のトレックはいかがでしたか?
トレックはロンドンとブリュッセルの2回。参加は任意なんですが、法律事務所とかリーガルテックのスタートアップとかに連れて行ってくれて、いろいろな話を聞きました。あとは裁判所や弁護士会にも行きました。
イギリスとアメリカって、ヨーロッパや日本と法律の体系が大きく違っていて、英米法、大陸法って言うんですが、全く考え方が違うんです。だからロンドンの全然違う考え方に触れられたのも面白かったですし、ブリュッセルはEUの本部があるのでEU で扱っている法律の競争法とか、以前あった Google への課徴金とかを扱っている部署があるので、それぞれそこならではの特色を見せてもらいました。
家族と一緒のマドリード生活
――ご家族連れての留学でしたが、学外での生活はどうでしたか?
家族はもちろん大変なこともあったと思いますけど、全体で見るとすごく良かったです。スペインを選んだ理由の1つに、日本人がいない学校に行こうというのもあったんです。アメリカだと日本人の弁護士が行く学校はだいたい同じで、過去の日本人学生が作ったノートがあって、ある程度日本語で勉強できちゃうんです。僕は、そういうのがあったら絶対楽な方に流れるので、日本人がいない学校に行こうと思ったんです。
でも、妻自身は自分が行きたくて行くわけじゃないし、そんなに英語も得意じゃないし、スペイン語ガッツリ勉強しようっていう気もないので、ある程度日本人と関わりがある方が良いなと思ってたんです。ちょうどIEは、MBAに日本人がたくさんいて、その仲間に入れていただけたので、すごく楽しそうでした。妻はIEのボランティアクラブみたいなのに登録していました。
あと、サッカーはたくさん見に行きましたね。レアル・マドリードのスタジアムのサンチャゴベルナベウに歩いて行けたんで。マドリードの生活はとっても好きでしたね。乾いてる気候もそうだし、みんなの陽気な雰囲気もそうだし。
――IE入学後、スペイン語を頑張ってましたね。
LLMプログラム開始が MBAより1か月遅かったんで、最初の1か月は語学学校に通いました。学校が始まってからはプログラムや英語に慣れるのが大変だったんですが、途中からオンラインのスペイン語レッスンを始めて自分で少しずつ練習していました。
人が行かない場所に行ってみようと思った
――IEご卒業後、スペインの法律事務所、続いてパナマの事務所へ。
卒業後すぐはスペインの法律事務所で半年ぐらい研修させてもらって、その後パナマの事務所に移動して4ヶ月ぐらい研修しました。パナマの事務所は、自分で探しました。留学2年目にどこに行くか決まっていなかったので、せっかくスペインに来たからスペイン語を学べば中南米の仕事もできるかと思って決めました。
日本の弁護士で中南米に行く人は少しいるんですが、ロースクールではなく仕事で行っている感じですね。商社やメーカーなど日本の大企業がクライアントになっている事務所の若手弁護士が、ブラジルやメキシコに実務を学びに行くそうです。でも、うちはそういう事務所と種類や規模も違うので、同じ所に行っても面白くない、ただあまりマイナーな場所だと仕事になる可能性がないと思って探して、パナマを見つけました。パナマは国の規模は小さいですが、税制を優遇して企業の中南米の地域統括本部をパナマに誘致する政策を掲げているので、パナマに本部を置いて、ブラジル以外の中南米のスペイン語圏の国の面倒を見る会社が結構あるんです。
国としては中南米のシンガポールを目指しているようです。運河があるので、一旦、パナマに物を持ってきて中南米各地に運ぶのに、お金がかからない仕組みになっているんです。普通、国に入れると関税かかって、また出す時にも税金がかかるんですが、外に出す前提でパナマに置く分にはお金取らない運用をしているようです。それから、元々運河を作ったのが米国で20年前パナマに返還されるまで運河地帯は米国領だったのもあって、通貨がドル連動(注:通貨はバルボアだが、1バルボアは常に1米ドル)しているので、通貨リスクがないのを売りにしているみたいですね。
――スペインとパナマの事務所は公用語はスペイン語ですよね。
事務所の弁護士は英語ができるんですが、僕スペイン語を学びたいからスペイン語でなるべく喋って欲しいと頼んで、何回も聞き直しながら一応スペイン語で仕事をしていました。受け入れる方も大変だったと思います。
IE MBA生との交流
みんなが混ぜてくれたので、僕がIEを卒業してマドリードの法律事務所にいる時も一緒にサッカー観にいったり、MBAの人たちが送別会をしてくれたり。1年半スペインにいたおかげで、同期は17年9月入学ですが、17年1月入学から19年1月入学まで沢山のMBA生とも知り合えて、情熱を持った若いビジネスマンや起業家といろいろな話ができたのが、予想外の恩恵で有難かったです。
――留学後のお仕事は?
海外での2年の経験と人脈を活かして、これからも語学を学んで、留学で得た関係性を保ちながら、スペインやパナマに関係する仕事を少しずつ増やしていきたいです。
僕がスペインの事務所で働けたのは、スペイン人のボスが、過去に日本の文科省の奨学金をもらって、日本に留学したことのある人だったからなんです。日本が大好きでスペインに帰ってからも日本の人と付き合っていて、日本のお客さんもいるんですよね。それで、もっと日本の仕事をしたいと思っているところに、日本の若造が勉強したいと言って来てるぞ、ということになって研修させてくれることになりました。2年間の海外滞在中1度だけ日本に帰国したんですが、そのスペイン人ボスと一緒に山口県に行ったんですよ。日本・スペインシンポジウムっていう会議に参加するためでした。
プロフェッショナルとしての目標
2年間で身につけたことの一つは、人と自然な気持ちで接するということですね。英語やスペイン語とか外国語のコミュニケーションって、最初はあるべきものに従わないといけないと思っていたんですが、海外で生活しているうちに、そんなこと気にせず自分の言いたいことを言って相手の言いたいことを聞くのが当たり前なんだというスタイルに慣れました。国内外に関わらず、いろんな人と会って自分の能力をフルに使って、面白い仕事をしたと思ってます。